運転免許返納後の身体的影響と移動弱者に対する代替移動手段

ドライブマネジメント

みなさんの両親、もしくは祖父・祖母はまだ車の運転をしていますが?

そして、あなた自身は何歳まで自動車を運転しますが?

近年、高齢者の事故の報道道路交通法の改正により運転免許を返納する方が年々増加しています。2020年3月の警視庁の運転免許統計によると2019年に免許運転免許を返納したのは前年比42.7%増の60万1022件となり制度開始以来過去最多になっています。


実際、私の働いている急性期病院でも2019年に自宅退院した患者様の約20%が免許返納もしくは運転の中止をしていました。

もちろんこの中には、身体機能や高次脳機能低下により担当医師より運転再開が危険と判断された方もいますが、自主的または家族に説得されて運転を中止した方もいます。

運転を中止することによって自分が起こす交通事故の心配は軽減すると思いますが、活動的な生活が送れず健康に悪影響が及ぶと言われています。

そこで、免許返納をする前にもう一度考え直しましょう!!




という話ではありません。



自分の趣味であるグランドゴルフを続けたいけど、交通事故で加害者もしくは被害者になって家族に迷惑をかけてしまうと申し訳ない

娘夫婦が共働きで孫の習い事の送り迎えをしていたけど、もう運転は危ないかな

両親が車の運転が出来ないなら、これから買い物や趣味を続けれるように送迎してあげないとけない




このように地域で生活される方にとって移動の目的は様々であり、日常生活を送るうえで車の運転はとても必要なものです。

運転免許を返納すると決断した方に、これから挙げる運転を中止した時の身体的影響のリスクを出来るだけ軽減して、その後も様々な代用手段を使いながら、社会参加や個人の活動を通して生活の質(QOL)を落とさないように医療・介護・地域で出来る事を考えていきたいと思います。


目次

運転を中止した時の身体的影響とその対策

自動車の運転は「認知・予測・状況判断・意思決定・操作」を繰り返し行う複合的な課題であり、手段的日常生活動作(IADL)の中でも難易度の高い活動の一つです。

この自動車を運転を中止した際にどのような身体的影響があるのでしょうか?

アメリカ老年医学会の系統的レビューでは運転を中止する事により抑うつ症状、健康状態、身体機能、認知機能、社会参加の低下、長期療養施設への入所リスクと死亡率の増加に影響があるとされており、国立長寿医療センター予防老年学研究部の調査では運転を中止した高齢者は、運転を継続している高齢者と比較して、要介護状態になる危険性が約8倍に上昇する事が明らかになりました。


自動車運転と健康状態の関係は相互関係にあり、健康状態の低下が運転の中止に繋がり、逆に運転の中止は健康状態の低下に繋がるという両方向性に関係しています。


家族を想い免許を返納したにも関わらず、健康状態が悪くなり心配をかけてしまうという事になれば、免許を返納した本人の気持ちが報われません。

では、どうすればいいのか。

ここでヒントになるのが、筑波大学の研究になります。

65歳以上の要介護認定を受けておらず、運転をしている2844名を対象に4年後に運転継続の有無と公共交通機関や自転車の有無を確認し、その後6年間における要介護認定のリスクを調査しました。

その結果、運転を中止した方は要介護認定のリスクが約2倍に上昇しましたが、公共交通機関や自転車を利用していた方はこのリスクを約1.7倍に抑えれていました。

公共交通機関や自転車の利用で、要介護認定のリスクが軽減する


自転車は日本人に馴染み深いものであり、自動車に取って代わる移動手段になります。

しかし自転車運転も「認知・予測・状況判断・意思決定・操作」を繰り返し行う複合的な課題であり、常にバランスを保ちながらペダルを漕ぐという高難易度の作業です。

また、自転車は道路交通法上軽車両扱いとなるため、加害者になった際は責任も重くなる可能性がありますし、自動車のような身体を覆う外装がないため怪我が重篤化しやすいというリスクもあります。

これらを踏まえた上で自転車の適応は状況判断能力やバランス能力が保たれている方になります。

運動障害によりバランス能力が低下している方は、シニア向けに車体が低く跨ぎやすいものや、電動アシスト付きのものなどが増えているので、そちらを検討するのもいいかもしれません。

任意保険に加入した上で、肘・膝のプロテクターやヘルメットを着用で、より安心・安全て利用できると思います。

運転中止後の対策例
  1. 身体機能や高次脳機能が既に低下している方に対しては要介護認定の申請や、地域生活支援センターに相談のもと、移動手段の代用やサービスを利用して社会参加の継続を図る。
  2. 健康状態に問題なく自転車を使用できる方は、自転車を継続的に使用できるように、身体機能維持向上を目的に運動指導やフィットネスクラブを利用する。


ここで対応に難渋するのが、公共交通機関の整備が整っていない過疎地に在住しており、要介護状態に当てはまらず、長距離歩行や自転車が困難な高齢者が移動弱者になってしまうことです。

では、この移動弱者に対しての取り組みやサービスはどのようなものがあるのでしょうか。

移動弱者に対する支援

MaaS(マース)とは

ITを活用した次世代移動サービス「Maas(Mobility as a Service)」とは、バス、電車、タクシーなどのあらゆる交通機関を、ITを用いて効率よく、かつ便利に使えるようにしたシステムをいいます。

移動の8割が自動車に依存していたフィンランドのヘルシンキ市の都市計画の中から生まれたMaaSですが、現在では台湾やシンガポールなどの先進国でも取り組みが始まっています。

最新技術を取り入れた未来都市開発や交通改革として注目されますが、MaaSは大きく分けて「都市型」「地方型」「観光型」に分類され、この「地方型のMaaS」が移動手段の選択肢の拡大や、効率よく路線バスやタクシーを運行することで安価な料金で利用できるなど将来的に移動弱者や地方自自体の課題を解決するとされています。

実際、八戸市はMaaSにより事業者間の連携が進み、路線バスの運行が228便から182便となり効率的な運営が実現しました。

地方の路線バスは介護や鉄道などの移動手段と比べ収支率が低く事業の継続化が難しいとされていたので、今後地域の交通計画やまちづくり計画に活用されていけばと思います。

現時点では、移動弱者に対してのサービスとして利用は難しいですが今後、問題解決策と一つになると思われます。


自家用車有償旅客運送制度とは

自家用車有償旅客運動制度とは、過疎地域でバス・タクシー事業が成り立たない場合、国土交通大臣の登録を受けた市町村やNPO法人等が自家用車を用いて提供する運送サービスです。

平成18年から制度化され、初年度の登録車両数は1673で平成30年には2852と年々増加傾向にあります。

損保ジャパン日本興亜は地域における移動支援を後押しするため、ドライバー自身が自身の契約する自動車保険を使用しないでいいように、「移動支援サービス専用自動車保険」を開発しています。

しかし、団体の運営は車の維持費や運転手の人件費で厳しく参入後に運送をやめる団体もあり、登録の地域格差があるため、利用にあたっては各地域で確認が必要と思います。

利用料金はタクシー運賃の半額が目安になっているため、安価な料金で利用できます。


>>実際に各都道府県の事例を知りたい方はこちらから国土交通省の資料をご覧ください



コミュニティバス(乗合バス)とは

コミュニティバスとは、バス会社ではなく、市区町村等の自治体が運行するバスになります。

一般乗合旅客自動車運送事業者に委託したり、市町村自らが登録を受けて運行しているため、こちらも安価な料金、もしくは無料で利用することが出来ます。



サロン送迎とは

サロン送迎とは、介護予防事業事業の一つとして、地域の高齢者が集まる場所「高齢者サロン」が全国的に取り組まれています。

地域住民が主体となって運営・参加を行い送迎のサービスを行っているところもあるため、サロンの利用中や送迎の途中で買い物等に寄ってもらう事ができます。



Uberとは

日本では「Uber Eats」が有名ですが、もとになっているのが「Uber」です。

車社会のアメリカに革新をもたらしたライドシェアサービスであり、一般のドライバーが自分の車にお客さんを乗せて移送することができます。


日本にはタクシー配車アプリとしてありますが、日本の法律上の問題で一般のドライバーが運転手として機能するサービスは提供されていません。

しかし、ラグビーワールドカップや東京オリンピックなどを見据え、観光客の交通手段として自家用車自動車の活用について、国家戦略特別区域のみ許可しようと国家戦略特区諸問会議で提案されるなど今後、過疎地域などでも広がっていけばと思います。



民間企業の移動支援とは

総務省の買物弱者に関する実態調査では民間企業もこの移動弱者に対して様々な取り組みをしており、「配食」「買い物代行」「移動販売」などを実施しています。

生活協同組合では対象店舗まで無料で送迎しており、実施にスーパーの中で歩いて商品を探す事が出来ます。

地域住民の方が自然と集まるので、地域交流のきっかけにもなり社会参加の一助となることができます。



タクシー

免許返納後の移動手段として一番の候補になるのがタクシーの利用になります。

自治体によっては免許返納して高齢者に対してタクシー券を配布していますが、上限金額が決まっており金銭的負荷を考慮すると継続した利用が難しい人もいます。

しかし、自家用車の維持には「自動車税」「車検」「自動車保険」「ガソリン代」などの費用がかかり年間50万円を超えるケースもあることから、近年ではカーシェアリングの需要が高まっています。

高齢者の場合でも、年間の維持費と、タクシーに置き換えた場合の値段を比較するとかえってお得に利用できる場合もあると思うので、一度計算してみてもいいかもしれません。



まとめ

今回は移動弱者に対しての外出・移動支援について地域や企業が取り組んでいることについまとめましたが、移動販売や買い物支援まで話題を広げると様々なサービスがまだあります。

対象者や疾患の特徴や、地域に特色によって、どのサービスを利用することでその方の生活の質(QOL)を保つことが出来るかは人の数だけ対応策があると思います。

運転から離れた後も新しいモビリティーを獲得して、前向きに暮らしていける支援と安全な交通社会が得られることを願います。



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